検証

シェアスペースから生まれた食品加工プロジェクトが、農家さんの本業として残った話

場をつくると、勝手に動き出すものがあった

前の記事で、コロナ禍にチグリスをオンラインに延長した話を書いた。場の話の続きをもう一本書きたい。今度は、場から派生して生まれたKIMOBETSU Foodiesというプロジェクトの話。

シェアスペースとしてのチグリスを始めて、地域の人とコーヒーを飲みながら話していると、いろんな課題が漏れ出てくる。

「畑で形が悪いから出荷できない野菜が、毎年けっこうな量で出る」 「加工したいけど、設備も時間もない」 「個人で売るには、ロットが半端で難しい」

フードロスというよりは、もっと素朴な「もったいない」だった。

それを、シェアキッチン付きの場所と、興味を持った人たちで掛け合わせたら、KIMOBETSU Foodies という小さなプロジェクトが立ち上がった。

僕は仕掛けたつもりはあまりなくて、場を開けておいたら、勝手に動き始めた、という感覚に近い。


当時はこう考えていた — 「ここから次々プロジェクトが生まれるエコシステム」

2020年の終わり、当時の僕は地方×デザインのイベントで登壇する機会があった。そこで話したのが、こんな構想だった。

地域内に面白い人を増やしたい。チャレンジしたい人を応援する、やりたいに巻き込まれる、作る楽しさを感じてもらう。目の前の課題を解決することで他の課題も解決するエコシステムを、シェアスペースを起点に作る。

要は、チグリスをハブにして、そこから Foodies みたいなプロジェクトが次々と連鎖的に生まれていく、という絵を描いていた。

実際、Foodies がうまく立ち上がったので、「これは再現性のあるモデルかもしれない」と当時の僕は思っていた。場さえあれば、課題は集まる。集まれば、誰かがやり始める。やり始めれば、別の課題に波及する。エコシステムが回り始める。

その絵で動いていた。


やったこと — シェアキッチンで小さく加工して、売ってみた

KIMOBETSU Foodies でやっていたことを書いておく。

  • 地元の農家さんから、出荷規格外の野菜や果物を引き取る
  • チグリスのシェアキッチンで、小ロットで加工する(ジャム、ピクルス、ペースト、ドライフルーツなど)
  • パッケージを作って、店頭やオンラインで売る
  • 売上の一部を生産者に戻す

仕組みとしてはシンプルだった。難しかったのは衛生管理、ロット設計、ラベル表示、商品開発、販路。要するに全部だった。

でも、メンバーの中に食品加工に明るい人がいて、農家さんも乗ってくれて、少しずつ商品が形になっていった。試作・販売・改良のサイクルを、場を共有しながら回せた。これがシェアスペースを軸にしたことの一番の効きどころだったと思う。


いま、Foodies はどうなっているか

5年経って、KIMOBETSU Foodies としての活動は休眠中だ。当時のチームでの定期的な動きはもうない。

でも、Foodies の話としてはここからが面白い。

このプロジェクトに関わってくれた地元農家さんが、自分の事業として食品加工を続けている。Foodies で開発した加工品のいくつかが、農家さんの製品ラインナップとして商品化されて、いまも販売が続いている。

つまり、シェアキッチンで生まれた小さな試作は、最終的にチグリスを離れて、農家さんの本業の一部に着地した

これ、当時の僕が想像していた絵とは、ちょっと違う。


いま見直すと — 場の役割は「触媒」だった

当時の僕は、場をハブだと思っていた。中心にあって、常に何かを生み出し続けるエンジン。

でも、いま振り返るとそうじゃなかった。場の役割は触媒だった。

化学の触媒は、反応を加速するけど、反応そのものには消費されない。反応が終われば、触媒は外に出る。

Foodies で起きたことは、まさにこれだった。

  • 場(シェアスペース)が、人と課題を引き寄せた
  • 場で反応が起きて、プロジェクトが生まれた
  • プロジェクトが形になると、場から離れて、本来あるべき場所(農家さんの事業)に着地した
  • 場は、そこで役目を終えた

これは前の記事に書いたTigris Discord店の話とも、構造的に対になっていて面白い。

  • Discord店:場が独立した価値を持てず、リアルが戻った瞬間に消えた → 場が消費されて終わった
  • Foodies:プロジェクトが場を離れて、本来の場所に着地した → 場は触媒として機能して、外に出た

どちらも「場が手段であって目的じゃない」という同じ話を、違う方向から照らしている。


「エコシステム」は再現性ではなく、偶然性で考える

当時の僕の構想が外れていたのは、もう一つある。

「シェアスペースから次々プロジェクトが連鎖する」という、エコシステムの再現性を期待していたことだ。

実際には、Foodies のような立ち上がりは、その後そう何度も再現しなかった。プロジェクトの種は何度も場に現れたけれど、ぜんぶが Foodies のように形になったわけじゃない。

いま見直すと、こういう連鎖は再現性じゃなくて偶然性で起きる、というのが正確な気がする。

場を開けておけば、偶然が起きる確率は上がる。でも、何回中何回起きる、という関数にはならない。1回起きたからといって、2回目が当たり前に起きるわけじゃない。

…これは結構大事な学びだ。場を運営する人間が、自分の場から「連鎖が起きないと失敗」と思い始めると、たぶん場は壊れる


当時 vs いまの解釈、まとめ

観点当時の僕(2020年末)いまの僕(2026年)
場の役割プロジェクトを生むハブ・エンジンプロジェクトを生む触媒(反応後は外に出る)
期待していたこと連鎖的なエコシステム形成(再現性)一度の偶然がちゃんと結実すれば十分(偶然性)
Foodies の評価軸第1弾。次々続くはずの最初単発の成功例。場が触媒として機能した一例
場とプロジェクトの関係場の中で動き続けるのが理想場を離れて本業に着地するのが健全
自分の関わり方ハブの中心にい続ける火種をつくり仕組み化したら手を引く(地域のカスタマーサクセス)
失敗の定義連鎖が起きないこと場を運営する側がそれを失敗と感じてしまうこと

学び — 僕のスタンスは「地域のカスタマーサクセス」

Foodies の経験を経て、自分のスタンスとしてはっきりしたことがある。

僕は地域に対して、カスタマーサクセス的な関わり方をしたいと思っている。プロダクト開発でいうカスタマーサクセスは、お客さんが自社プロダクトを使って自走できる状態を作ることが仕事だ。それと同じで、地域の人たちが自走できる状態を作ることを、自分の理想にしている。

だから、僕がいなくても進むようになったら、手を引く。

Foodies の場合、農家さんが自分の事業として加工品を続けられるようになった時点で、僕が中に居続ける理由はもうなかった。だから自然と手が離れた。

…これ、見方によっては「投げ出した」と思われるかもしれない、という自覚はある。最初に火をつけた人間が、軌道に乗ったら離脱する、というのは、コミットメントが薄く見える側面はたぶんある。

でも、僕にできるのは「火種をつくる」と「仕組み化する」のふたつだと思っている。一つひとつのプロジェクトに深く張り付いてしまうと、別の火種に手が回らなくなる。地域に火種が必要な数だけある以上、僕は浅く広く触媒として動く方が、合計の貢献は大きくなるはず。

なので、ひとつのプロジェクトに深く関わりすぎないように、意識して動いている。

このスタンスから振り返ると、Foodies は理想に近い形で進んだ事例だ。場が触媒になって、火種が起きて、仕組みができて、地域の人の手に渡って、運営者(僕)はそこから抜けた。自分の手柄にならない形で、結果が残っている

場づくりも、プロジェクトの立ち上げも、最後は自分の手柄にならないことを許容できるかどうかが肝なんだと思う。


次のステップ — 場は開き続けて、プロジェクトを流していく

ここでひとつ整理しておきたい。場は畳まれていない

チグリスのリアル店舗は、いまも変わらず開いている。Foodies としての活動は休眠中だけど、シェアスペースとしてのチグリスは健在で、地域の人がコーヒーを飲みに来るし、別の話題が漏れ出てくる場所として機能し続けている。

つまり、場は閉じずに、プロジェクトの方が形を変えて場の外に出ていった、というのが正確な絵だ。

  • 場(チグリスのリアル店舗):触媒として開き続けている
  • KIMOBETSU Foodies としての活動:休眠中
  • そこから生まれた加工品:地元農家さんの本業として継続

これを切り離して見ると、場とプロジェクトは別の理屈で動いていることがわかる。場は閉じる必要がない。プロジェクトは形が変わってもいい。場が変わらず開いているからこそ、次の火種がいつ起きてもおかしくない。

このメディア「地域課題、どう解く?」も、ある意味では場のひとつだ。記事を書くことで議論が起きて、誰かのプロジェクトが立ち上がって、最終的にそれが僕の手から離れて誰かの本業になるとしたら、それはたぶん、いちばん健全な使われ方だと思う。

メディアは閉じない、書き続ける。生まれたものは、別の場所に流していく。チグリスでやってきたことと、構造は同じだ。


もし「うちでも場づくりをしている」「触媒型と所有型の関わり方に思うところがある」みたいな方がいれば、ぜひ話したいです。火種のつくり方より、軌道に乗った後の離れ方の話の方が、僕は聞きたいです。


この記事について

この記事は、過去の僕が書いた以下のnoteを元にリライトしています。

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