フレームワーク

プロジェクトの『なぜ』を保つ、3つの要素

「やってるうちに、なんでやってるか分からなくなった」

プロジェクトを動かしている人の口から、けっこうな頻度で聞く言葉だ。

最初は熱量があった。集まったメンバーも、それぞれの想いを持って参加した。でも、半年もすると目の前のタスクで頭がいっぱいになる。会議は進捗確認ばかりになる。誰も止まらないし、誰も「で、なんでこれやってるんだっけ」とは聞かない。

このメディアではプロダクト思考で地域課題を解く話を書いているけれど、これは地域でも Web サービスでも同じパターンで起きる。WHY が薄れる、という現象。

僕は、これは運用上の摩耗ではなくて、プロジェクトの設計の問題だと思っている。WHY は最初に旗を立てたら終わり、ではない。動かし続けるための要素が設計に組み込まれていないと、放っておけば確実に薄れる。

ここでは、その要素を3つに分けてフレームワークとして書く。


要素①:WHY → WHAT → HOW の一貫性

プロジェクトの動機(WHY)、何をやるか(WHAT)、どうやるか(HOW)。この3つが一貫していること。

当たり前のように聞こえるけれど、現場では普通に乖離する。

  • WHY「地域に若者の働き場所を増やしたい」
  • WHAT「コワーキングスペースを作る」
  • HOW「補助金で内装する/月会費を取る」

これは一見つながっている。でも、半年後に「会員数が伸びない」と言われたとき、HOW が「会員獲得のための SNS 強化」に流れていく。HOW の目的が、WHY の達成から、KPI の達成にすり替わる。

WHY と切り離された HOW は、いずれ手段が目的化する。

「動機」から「何を」「どのように」まで一貫性を持ったプランになっていると、前進しやすく、後退もしやすい。

7年前の僕がメンタリングを受けたときに、ある中間支援組織の取締役の方から言われた言葉だ。「後退もしやすい」という表現が大事で、WHY に一貫性があれば「これはやめる」「これは違う」という判断がつく。WHY からの距離が、HOW を取捨選択する物差しになる

逆に WHY と切り離された HOW は、やめる理由が見つからないまま、惰性で続く。

いま足したい補足:

WHY は最初に正確に書ける必要はない。動きながら更新していい。むしろ、最初の WHY が症状ベース(「もったいない」「課題が多い」みたいな素朴な感情)なのは普通だ。だから WHY は一度書いて終わりじゃなくて、動きながら何度も書き直すことが前提だと思う。

要素①は「WHY を固定すること」ではなく、「WHY-WHAT-HOW のつながりが、いつでも辿れる状態にしておくこと」 と言い直したほうがいい。


要素②:個人の WHY × 組織の WHY の重なり

プロジェクトに関わる「人」の側の WHY を設計する話。

メンバー個々人の「なぜこのプロジェクトに参加するか」と、プロジェクトが掲げる「なぜこれを世に問うのか」が、重なる部分を意識すること。

「個人の WHY」と「所属している組織の WHY」の重なった部分が、その人の価値だと思っている。そうじゃなければ独りよがりでミスマッチになってしまう。

7年前の僕が書いた一文。これも基本的にそのとおりだと思う。重なりがあれば、その人の力はプロジェクトに乗る。重なりがなければ、いずれ離れる。

実用的には、プロジェクト参加の入り口で「あなたの WHY はなんですか」「組織の WHY のどこに重なりますか」をちゃんと言葉にする時間を取ること。雑談で済ませない。重なりが薄いとわかったら、無理に巻き込まない。

いま足したい補足:

重なりは、最初に握って終わりではない。ここも更新が必要。

人の WHY は、ライフステージや関心の変化で動く。組織の WHY も、フェーズで変わる。最初に重なっていたふたつが、2年後にはずれていることはふつうにある。だから「入り口の重なり」と「動かし続ける中での重なり」を、別物として扱う。

そして、重ならなかった場合に「ミスマッチだから去る」と一律にしないことも大事だ。重ならない人が、別の角度でプロジェクトに貢献する形を一緒に探す、という選択肢を残しておく。重なる/重ならないの二択にしないほうが、長期では強い。


要素③:振り返りの設計

WHY は放っておくと薄れる。だから定期的に戻る場が必要。

7年前の僕はこれを「定期的に振り返る場も必要なんだと思う」と書いて終わっていた。当時はそのくらいの解像度だった。

いま足したい補足:

「振り返り」は、WHAT で疲弊した時の救急処置じゃなくて、ルーチンとして組み込むことに価値がある。

理由はシンプルで、疲弊してからの振り返りは、たいてい「やめるか続けるか」の二択の苦渋になる。元気なうちに、定期的に「で、なんでやってたんだっけ」を確認しておくほうが、軌道修正の幅が広い。

具体的には:

  • 月1回、進捗ではなく WHY に戻る時間を作る
  • 「いまの活動は WHY のどこにつながっている?」を全員で言葉にする
  • 個人 WHY が動いていないか、各自で確認する(人の WHY は静かに動く)

このとき大事なのは、振り返り=反省会にしないこと。WHY からの距離を確認する場であって、できなかったことを並べる場ではない。


3要素は、別々のタイミングで緩む

整理する。

要素守るもの緩むと起きること
① WHY-WHAT-HOW の一貫性プロジェクトの方向手段が目的化する
② 個人 WHY × 組織 WHY の重なり関わる人の継続メンバーが摩耗して離れる
③ 振り返りの設計WHY の鮮度進捗管理に飲まれて方向を見失う

3要素は同時に効くというより、緩むタイミングが違う。WHAT との摩擦を感じたら①、メンバーの熱量が落ちたら②、進捗会議が単調になったら③。どこが緩んでいるかで、戻る場所が変わる


短い事例:僕がやり損ねたパターン

最後に、自分の事例をひとつだけ。詳しくは analysis のフードロス記事 に書いたけれど、僕が立ち上げた地域の食品加工プロジェクトは、要素①と③が緩んでいたケースだった。

WHY は「規格外野菜がもったいない」だった。これは症状ベースで、構造を見ていなかった(要素①の WHY が弱かった)。そして動き出してから2年目あたりで「いま自分たちは構造のどの層を解いてる?」と立ち止まる場(要素③)を作らなかった。

結果、HOW の世界(加工が大変、販路がない)に飲まれて、WHY を見直す機会を失った。

当時の僕はこのフレームワークを持っていなかった。だから止まれなかった。逆に言えば、このフレームを持っていたら、2年目で止まれた可能性は高いと思っている。緩む場所と戻る場所がはっきりしているフレームだ。


当時 vs いまのまとめ

観点当時の僕(2019)いまの僕(2026)
WHY の位置づけプロジェクトの入り口で立てるもの動きながら何度も書き直すもの
重なりの扱い最初に握れば「その人の価値」が決まる入り口の握りと、動かし続ける中の握りは別物
振り返り必要、と一般論で言ったルーチンとして組み込む。疲弊してからやるものじゃない
一貫性が崩れたとき戻ればいい、と素朴に書いたどの要素が緩んだのかを切り分ける視点を持つ

骨格は7年前と同じ。ただし、動かし続けるための解像度が、7年分の現場で上がった。


地域でも Web でも、構造は同じ

冒頭で書いたとおり、僕はこのフレームを Web サービスのプロダクトマネージャー業務と、地域プロジェクトの両方で使っている。両者で言葉づかいは違うけれど、構造は同じだ。

  • Web サービスのプロダクト → 「ミッション/ビジョン」「OKR」「アジャイル振り返り」が、それぞれ要素①②③のフォーマット
  • 地域プロジェクト → 「ビジョン」「協働の握り直し」「定例会の運営」が、それぞれ要素①②③のフォーマット

呼び名が違うだけで、緩む場所も、戻る場所も同じ。プロジェクトを動かし続ける、という視点で見れば、両者は地続きだと思っている。


もし「自分のプロジェクトのどの要素が緩んでいるか分からない」「振り返りの設計を、もう少し具体的に話したい」という方がいたら、ぜひ話したいです。3要素のどこから手をつけるかは、プロジェクトの状態によって違うので、状況を聞きながら整理できると思います。


この記事について

この記事は、過去の僕が書いた以下の note を、いまの解像度でフレームワークとして整理し直したものです。

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