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執筆者の立ち位置 — 3つの軸でバランスを取る

このメディアを書いている、僕の立ち位置について

このメディアは「地域課題、どう解く?」というタイトルで、地域の課題をプロダクト思考で解いていく試みを書いている。

書いている僕は、北海道喜茂別町という人口2000人の町に住みながら、フルリモートで都市部の企業のプロダクト支援をしているプロダクトマネージャーだ。

…と書くと、ちょっとよくわからない人になる。地方の人なのか、都市の人なのか、現場の人なのか、外から見る人なのか。

正直、自分でも一言で説明するのは難しい。なのでこのページでは、3つの軸で僕の立ち位置を言語化してみようと思う。これは2020年末に「地方×デザイン」というイベントで話した内容を、5年後のいまから書き直したものでもある。


軸① 地方 × デザイン — 田舎はブルーオーシャンだと思っている

当時: 喜茂別に地域おこし協力隊として移住して、最初に気づいたのはこれだった。

解決すべき課題は多いのに、それを主体的に解こうとする人が、地域内に圧倒的に少ない。

つまり「やる人が足りない」状態。だから田舎はブルーオーシャンだ、というのが当時の言い方だった。やれることが無数にあって、誰もまだ取り組んでいない。

だから僕は、地域内に面白い人を増やすことを一番のゴールに置いていた。チャレンジしたい人を応援する、やりたいに巻き込まれる、作る楽しさを感じてもらう。シェアスペースを開けたのも、KIMOBETSU Foodies を始めたのも、ぜんぶこの方向の打ち手だった。

いま: 方向は変わっていないけど、自分の役割の捉え方が明確になった。当時はぼんやり「面白い人を増やす」と言っていたけれど、いまは自分のスタンスを一言で言える。

僕は、地域のカスタマーサクセスでありたい。

プロダクト開発でいうカスタマーサクセスは、お客さんが自社プロダクトを使って自走できる状態を作ることが仕事だ。それと同じで、地域の人たちが自走できる状態を作ることを、僕の役割にしている。

だから、自分にできるのは火種をつくることと、仕組み化することのふたつだ、と割り切っている。火がついて軌道に乗ったら、僕は手を引く。地域に火種が必要な数だけある以上、ひとつのプロジェクトに深く張り付くより、浅く広く触媒として動く方が、合計の貢献は大きい。

…これは見方によっては「投げ出した」と思われるかもしれない、という自覚はある。でも、自分の役割を一番効かせるためには、この距離感を意識しておく必要がある。

シェアスペースをやっていた当時の手段は「場」だった。いまはそこに「メディア」が加わった。場もメディアも、地域の人が自走するきっかけを作る装置だ、という観点では同じ役割を担っている。


軸② 地方 × フルリモート — 中庸であることで両方を補完する

当時: 2020年の時点で、僕は田舎に住みながらフルリモートで都市の仕事をする働き方を、すでに数年続けていた。コロナでリモートワークが急に注目された頃だ。

そのとき僕が言っていたのは、こうだった。

田舎と都市のふたつの軸を持つと、両者の良し悪しが見えやすい。どちらかに寄らず、バランスを保つことが、地域でチャレンジし続ける方法かもしれない。

地方に寄りすぎると、外の感覚を失う。都市に寄りすぎると、地域に足が着かない。だから中庸でいる、というスタンスだった。

いま: リモートワークは当たり前になった。「田舎でリモートで仕事する」という、当時の希少性はもう消えた。あの頃の「先取り感」みたいな価値は、たぶんゼロに近い。

でも、中庸であることの価値そのものは、消えていない。むしろ役割が変わった。

いまの僕の立ち位置は、「ずっと田舎にいる人」と「都市にしかいない人」の翻訳者みたいなものだと思っている。両方の生活感を実地で持っているからこそ、片方の言葉をもう片方に翻訳できる。地域課題を都市の言葉(プロダクト思考、デザイン、テクノロジー)で語り直す、というのは、まさにこの翻訳作業だ。

これは、リモートワークが普及したいまの方がむしろ価値が出る役割だと感じている。みんな両方を経験する素地はあるけれど、両方を生活として持ち続けている人は、まだそんなに多くない。


軸③ 地方 × 未来 — 機会格差を、どうやって埋めるか

当時: 登壇のとき、こんなことを話した。

子どもたちが将来「帰ってきたい」と思える地域を作りたい。そのためには、都市部と田舎の機会格差をなくす必要がある。地域が実証実験の場になり、デザインファームやIT企業を巻き込みながら、テクノロジーで課題解決できればいい。

要は、テクノロジーで機会格差を埋めるという路線だった。コロナでリモートワークが広がったタイミングだったから、「これで地理的な機会格差は埋められる」と当時は楽観していた部分があった。

いま: 方向は同じ。ゴールも変わっていない。でも、テクノロジーだけでは機会格差は埋まらない、ということが、5年経って見えてきた。

リモートワークは普及した。情報へのアクセスは平等になった。それでも、地域と都市のあいだには埋まらないギャップがある。

それは、関係性だ。

都市には、ふらっと立ち寄れる場所、偶然の出会い、テーマ別の集まり、専門家との接点が、密度高く存在する。地方は、それがどうしても薄い。テクノロジーはこの密度を上げる助けにはなるけど、テクノロジーだけで埋まる種類のギャップじゃない。

だからいまの僕は、「場と関係性のデザイン」を、テクノロジーと組み合わせる方向にシフトしている。このメディアもそのひとつだし、まだ言語化中の次の場の構想もある。

地域が実証実験の場になる、という当時のフレーズは、いまも生きている。ただし何を実験するかは、当時より射程が広くなった。


3軸が交わるところに、このメディアがある

3軸を並べて書いたけれど、結局このメディアは3軸が交わるところに位置している、というのがいちばん近い説明かもしれない。

  • 軸①(Local × Design):地域のカスタマーサクセスとして、火種をつくり仕組み化する装置。地域課題をプロダクト思考で構造化する、というメディアのコンセプトそのもの
  • 軸②(Local × Anywhere):田舎と都市の翻訳者として、両方の言葉で書く
  • 軸③(Local × Future):機会格差を埋める実証実験の場として、メディア自体を動かす

…書き並べてみると、当時の3軸が、見え方を変えながらいまも生きているのが自分でも面白い。

5年前は、それぞれの軸を別個に説明していた。いまはぜんぶがひとつのメディアに統合されている。

これがうまく機能するかは、これから書き続けてみないとわからない。でも、このメディア自体が3軸を生かすかどうかの実証実験だと言える。


もし「自分も似たような複数の軸の上に立っていて、どう統合するか迷っている」みたいな方がいたら、ぜひ話したいです。複数軸を持ち続けている人の話は、聞くだけでもけっこう参考になります。


この記事について

この記事は、過去の僕が書いた以下のnoteを元にリライトしています。

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