アイデアは出た。でも、ここから何をする?
前回の記事で、ゴミが捨てられ続ける構造を環境設計・心理・インセンティブの3層で分解した。そして、地域のメンバーから「地域通貨」「投票型看板」「トイレ設置」というアイデアが自然と出てきた。
整理した。構造化した。アイデアも揃った。
…で、どうする?
ここで止まってしまうのが、地域の活動でいちばんよくあるパターンだと思う。アイデアは出るのに、誰も手をつけないまま次の会議が来て、また別の議題に流れていく。
「アイデアを実行に移す」と一言で言うけれど、間にプロトタイプの設計という地味な工程がある。何を試すのか、どこまで作るのか、何で成功を測るのか。これを決めないと、結局なにも始まらない。
今回は、アイデアの中から「投票型看板」をひとつ選んで、プロトタイプとして設計してみる。
なぜ「投票型看板」を選ぶのか
3つのアイデアの中で、いちばん小さく試せるからだ。
| アイデア | コスト | 必要な合意 | 検証までの距離 |
|---|---|---|---|
| 地域通貨 | 高(システム実装) | 多(行政・店舗) | 遠い |
| トイレ設置 | 高(建設・許可) | 多(土地・自治体) | 遠い |
| 投票型看板 | 低(看板1枚) | 少(設置場所だけ) | 近い |
プロト設計の原則のひとつに「いちばん不確実な部分を、いちばん安く試す」がある。地域通貨やトイレ設置は、効果はあるかもしれないが、効果以前に「実装まで辿り着けるか」が不確実すぎる。
一方、投票型看板は「設置すれば、効果が出るかどうかは比較的すぐ分かる」フェーズに入れる。失敗しても、看板1枚分の損失で済む。
仮説を一文に書く
プロトを作る前に、必ずやることがある。仮説を一文で書くことだ。
書けないなら、まだプロトの段階じゃない。もう一度、課題に戻る。
書いてみた。
長距離トラックの運転手が、休憩スポットで「投票型ゴミ箱」に出会うと、ゴミを散らかすのではなく投票として捨てる行動を選ぶ。
この一文には、who(誰が)・where(どこで)・what(何をすると)・how(どう変わる)が入っている。曖昧な「ゴミ問題を解決する」ではなく、特定の行動の変化を予測している。
仮説がこの粒度まで来ると、検証方法が自動的に見えてくる。「散らかすか、投票するか」を観察すれば、仮説の真偽は分かる。
最小単位 — どこまで削れるか
プロトの設計で、いちばん難しいのが「何を削るか」だ。あれもこれも欲しくなる。看板のデザイン、設置場所、サイズ、投票テーマ…考え始めるとキリがない。
ここで効くのが「この機能がなくても仮説は検証できるか?」という問いだ。
| 要素 | 必要か? | 理由 |
|---|---|---|
| 看板の存在 | 必須 | これがなければ検証できない |
| 投票テーマ | 必須 | 「投票型」の本質 |
| 投票箱(吸い殻入れ) | 必須 | 行動の受け皿 |
| 設置場所の選定 | 必須 | トラック休憩スポットが前提 |
| デザインの完成度 | 不要 | 手書きでもいい。読めればいい |
| 多言語対応 | 不要 | まずは日本語だけで様子を見る |
| 投票結果の集計装置 | 不要 | 目視で十分 |
| QRコードでアンケート | 不要 | 「ある方が良い」のリストには無限に項目が並ぶ |
つまり最小単位は、**「手書きの看板1枚 + 2つの投票箱(吸い殻 or ペットボトル用)」**で済む。コストはおそらく1万円以下、準備は週末1日。
これでまず1ヶ月置いてみて、何が起きるかを観察する。それが Phase 1。
評価指標 — 「捨てられる量」で見る覚悟
プロトを作る前に決めなきゃいけないもう一つのこと。何で成功を測るか。
ここを曖昧にすると、後から「なんとなく良かった気がする」みたいな振り返りになって、学びが残らない。
今回の指標はシンプルだ。
- 設置前:1週間のゴミ収集量(重量 or 袋数)
- 設置後:同じ場所での1週間のゴミ収集量
差分が出れば、看板の効果がある。出なければ、ない。
副次指標として「投票箱に入った量」も見るが、本指標はあくまで散乱ゴミの減少だ。投票箱に入ったとしても、周りの散乱ゴミが減らなければ、解いたことにはならない。
…ここまで書いて気づいた。これ、けっこう怖い指標だ。看板を置いて、何も変わらなかった場合、「効果なし」とハッキリ突きつけられる。
でも、その怖さに耐えるのがプロトの本質だと思う。
やる前から見える失敗パターン
プロトを設計しているうちに、失敗パターンも見えてくる。これを先に書き出しておくと、結果の解釈が早くなる。
①「投票が楽しい」だけで終わるパターン 投票箱には入るが、周辺のゴミは減らない。看板の前にだけ集まる現象。→ 行動の置き換えではなく追加になっている可能性。
②「観察期間が短すぎた」パターン 1ヶ月では行動定着まで届かない。→ 期間延長で再検証。
③「設置場所が想定と違った」パターン 実は長距離トラックではなく、観光客の方がメインだった、など。→ ユーザー像の再定義。
④「投票テーマが滑った」パターン 「どっちが好き?」のテーマが地域文脈と合わない。→ テーマ設計の修正。
どのパターンに当てはまるかで、次のプロトの方向性が変わる。失敗パターンを設計段階で言語化しておくのは、検証フェーズの僕への申し送りでもある。
プロト設計のサマリ
ここまでをひとつにまとめると、こんな一枚絵になる。
【仮説】
長距離トラックの運転手が投票型ゴミ箱に出会うと、散らかすのではなく投票として捨てる
【最小単位】
手書き看板1枚 + 投票箱2つ(吸い殻 / ペットボトル)
設置場所: 中山峠手前の駐車ポイント
【評価指標】
主: 設置前後の散乱ゴミ重量の差分
副: 投票箱に入った量
【期間】
設置前 1週間(ベースライン計測)
設置後 1ヶ月
【見えている失敗パターン】
投票だけ流行る / 期間不足 / ユーザー像のズレ / テーマの滑り
ここまで書ければ、あとは作って置くだけ。
プロトを設計するということ
プロダクト開発をしていると、よく「プロトを作る」と言う。でも、作る前の設計の方が、実は時間がかかる工程だったりする。
仮説を一文に絞る、最小単位を決める、評価指標に覚悟を持つ。この3つを越えれば、あとの実装は早い。
地域課題に対しても、これは同じだと思う。「やってみよう」のあとに、こういう地味な設計の時間をちゃんと取れるかどうか。そこに「やったつもり」と「学びが残る」の差がある。
…次は、実際にこの看板を置いてみた話を書きたい。
設置場所の交渉、看板のデザイン、最初の1週間で何が起きたか。うまくいくにせよ、いかないにせよ、記録に残す価値はあると思っている。
もしこの設計に「ここはこう変えた方がいい」「うちでも似たことやってる」みたいな声があれば、ぜひ話したいです。プロトは一人で作るより、誰かと議論しながら作る方が断然面白い。