「議論すべきトピックは何ですか?」
3 ヶ月分の議事録を Claude に読み直させたら、面白いことに気づいた。
259 件の議事録のうち、約 4 割が同じ書き出しで始まっていた。
「議論すべきトピックは何ですか?背景情報などの詳細をメモとして追加してください」
これは AI 議事録ツールが、会議の音声から要約できる "中身" が無かったときに出力する、いわばエラーメッセージみたいな一文だ。会話が雑談やリスケ調整だけで終わると、AI は要約のしようがなくて、こういう "テンプレ文" を返してくる。
そして、3 ヶ月で 100 件以上、これが量産されていた。
僕が思ったのは、AI 議事録ツールが悪いんじゃない、ということだ。
これは、会議そのものが議事録になりにくい構造で運営されている、という鏡だ。
このメディアの media-tsukutte-mita と同じ "AI と仕事する" 系の問いとして、ここを掘ってみたい。
AI 議事録の出力は、3 類型で分かれる
3 ヶ月分の議事録を眺めると、出力はだいたい 3 つに分かれる。
類型 1: テンプレ文で埋まる (約 4 割)
「議論すべきトピックは何ですか?背景情報などの詳細をメモとして追加してください」 「会議では議論すべきトピックを確認し、背景情報を含むメモを追加することが行われた」
これは "AI が何も拾えなかった" 状態。会議そのものが定例の枠だけで、中身の議論が無かったか、あるいは雑談 / リスケ調整 / 出席確認だけで終わっている。
類型 2: アクションアイテムの羅列 (約 3 割)
「アクションアイテムには、A の依頼、B の確認、C の実装が含まれる…」
アクションは並ぶが、「なぜそのアクションが必要なのか」の文脈が抜ける。事後に読んでも、判断の理由が再構成できない。
類型 3: 数字と固有名詞で立ち上がる (約 3 割)
「ある自治体の協力隊定着率は約 50%、新規採用は 4 月・6 月・7 月で 4 名予定、追加で 5〜6 名の枠がある。移住施策は未整備で…」
これは AI 議事録が 会議の中で出た固有名詞と数字をピンで止めた状態。会議の入力が具体的だったから、AI もそれを引き出せている。
3 類型の差は、どこで決まるのか
僕が観察した範囲だと、差はほぼ "会議の入力" で決まっている。
| 入力の状態 | 出力の類型 |
|---|---|
| アジェンダなし / 定例の枠だけ | 類型 1 (テンプレ文) |
| アジェンダはあるが、論点が立っていない | 類型 2 (アクション羅列) |
| アジェンダ + 論点 + 期待アウトプット | 類型 3 (数字と固有名詞で立ち上がる) |
AI 議事録ツールを変えても、この差はあまり埋まらない。
これは Web プロダクトで言うと、「ユーザーが入力した情報の質が低ければ、AI の出力の質も低い」というよくあるパターンだ。Garbage In, Garbage Out。
PdM の語彙でいえば、議事録は 会議という入力に対する出力 であって、出力だけを改善しようとしても限界がある、ということになる。
会議の入力を上げる、3 つの最小要素
では、会議の入力をどう上げるか。
僕が、自分が招集する会議で意識し始めたのは、3 つの要素だ。
1. テーゼ (Thesis): 今日決めたいことを 1 文で
「今日のミーティングのアジェンダは…」ではなく、
「今日、私たちが決めたいのは X です」
の 1 文を、会議の冒頭で発する。あるいは事前にカレンダーの説明欄に書いておく。
これがあるかないかで、議論が「論点に向かう」のか「報告の積み重ねで終わる」のかが変わる。AI 議事録的にも、テーゼがある会議は要約の "幹" がはっきりするので、出力が立ち上がる。
2. 論点 (Points of friction): 意見が割れそうな箇所を 2〜3 個
テーゼに対して、
「ここで意見が割れる可能性があるのは、(a) (b) (c) です」
を会議の前半で出しておく。
論点が見えないと、人は意見を持って参加できない。意見を持たずに参加した人は、議論にエンゲージできず、結果として「えーと、議論すべきトピックは…」で会議が止まる。
3. 期待アウトプット (Expected output): この会議の終わりに、次の人に渡すもの
会議は、ほぼ全部、次のアクションへのバトンだ。
「この会議の終わりに、誰に何を渡せば次に進めますか」
を冒頭で決めると、終わり方が自然に決まる。AI 議事録は、終わり方が決まっている会議だと、「決まったこと」と「次のアクション」を正しく拾える。
自分のメディア運営にも、同じ問いが効く
このメディアの記事を書くとき、僕は AI と何往復もする。
「規格外野菜の話を、構造化して書きたい」だけだと、AI からは「どういう構造で書きたいですか?」と返ってくる。これは、議事録ツールが「議論すべきトピックは何ですか?」と返してくるのと同じ現象だ。
代わりに、
- テーゼ: フードロスは "余ってる" ではなく "出てしまう" 構造の問題、と書きたい
- 論点: "労働力 / 規格 / ロット / 文化" の 4 層分解は妥当か / 過剰か
- 期待アウトプット: analysis セクションの 1 本、2000 字程度
を渡すと、AI の返答の質が明確に上がる。
つまり、会議も執筆も AI も、入力の構造化で出力の質が決まる、というのが共通の原則だ。
AI は議事録を書く。けれど、会議をデザインしない
最後に、僕が一番大事にしている結論を書いておく。
AI は議事録を書ける。けれど、AI は会議をデザインしない。
会議をデザインする責任は、招集者にある。これは PdM の仕事の中で、コードを書くことや要件を整理することと並んで、見過ごされがちなコア・スキルだ。
「議事録を AI に書かせたから、自分は会議をやる側に集中できる」 ―― これは正しい。けれど、それは 「会議のデザインに、より多くの工数を割けるようになった」 ことの裏返しでもある。
AI 議事録の質が低いとき、責められるべきは AI ではなく、会議の招集者だ。これが、3 ヶ月分の議事録を読み返した僕の、率直な結論になる。
開いている問い
このメタな視点をもう一段拡張すると、こうなる。
「AI を入れることで人間が手放した責任は何で、まだ手放してはいけない責任は何か」
議事録は AI に手放してよい。けれど、会議のデザインは手放してはいけない。
同じように、
- 記事の執筆は AI に手放してよい。けれど、思考の出発点は手放してはいけない(media-tsukutte-mita)
- コードの一部は AI に手放してよい。けれど、設計判断は手放してはいけない
- 自治体ヒアリングの要約は AI に手放してよい。けれど、論点の組み立ては手放してはいけない(Skill 2 記事)
…という線引きが、AI 時代の PdM の手元に残るべき仕事の輪郭になる。
これは、もう少し書き込みたいテーマだ。