火曜日の朝、雪かき
火曜日の朝 7 時、雪かきをしている。
3 月とはいえ、人口 2000 人の北海道の町ではまだ普通に雪が降る。除雪車は通ってくれるが、家の玄関までは自分でやるしかない。だいたい 20 分、スコップを動かす。
雪かきを終えて、家に戻って、コーヒーを淹れる。
8 時、保険業界の B2B SaaS の Product mtg がオンラインで始まる。10 時、移住推進団体の定例。13 時、専門職向け継続学習 SaaS の仕様確認。15 時、小 4 の息子が下校してきて、グローブを持って野球の練習に付き合う。夕方は地域のミーティング、あるいは家のことをする。
3 ヶ月分の議事録を見返すと、こういう日が積み重なっていた。
このメディアの about-3-jiku で僕の立ち位置を 3 軸で書いたけれど、今回はその "動かし方" の側を書いておきたい。
議事録のボリュームが示すもの
最近 3 ヶ月の議事録を、カテゴリ別に並べるとこうなる。
| カテゴリ | 件数 | 比率 |
|---|---|---|
| 保険業界の B2B SaaS | 90 | 35% |
| 専門職向け継続学習 SaaS | 72 | 28% |
| 移住推進 | 55 | 21% |
| 医療系プロダクト | 23 | 9% |
| ブランディング案件 | 7 | 3% |
| その他 | 12 | 4% |
これを見ると、僕の時間の使い方の "重心" がだいたいわかる。保険と教育の B2B SaaS が時間の 6 割、移住が 2 割、残りで医療と他の案件、家庭、地域。
5 つの分野が並んでいるのに気づくと思う。これらは、業界も顧客もまったく違う。
- 保険業界の B2B SaaS: 業法改正への対応・全件チェック・営業ワークフロー自動化
- 専門職向け継続学習 SaaS: 申込管理・支払いステータス・会場研修フロー
- 移住推進: 自治体ヒアリング・協力隊募集・実践講座
- 医療系プロダクト: 検体管理・依頼 ID・バーコード設計
- ブランディング案件: CI/VI・Web デザイン
並べて書くと "詰め込みすぎ" に見える。実際そういう日も多い。けれど、3 ヶ月続いているということは、何らかの設計が成立はしている、ということでもある。
並走が成立している、3 つの設計
なぜ成立しているのか、自分なりに振り返ってみると、3 つの設計が効いている気がしている。
1. 時間ブロックの粒度を 3 つに分ける
僕は時間を、3 つの粒度に分けている。
- 30 分: 進捗確認、相談、リスケ調整、定型の意思決定
- 60〜90 分: 仕様確認、要件整理、自治体ヒアリング、商談
- 半日: 設計、企画、深いリサーチ
定例ミーティングはだいたい 30 分か 60 分。半日のブロックは、週に 2〜3 回だけ確保する。これは「他の予定を入れない」ことを明示的にしないと、すぐに細切れの 30 分で埋まる。
3 ヶ月分の議事録を見返すと、月・水・金がプロダクト系の定例で埋まりがちで、火・木は自治体ヒアリングや企画に当てやすい、というパターンが浮かび上がる。
2. コンテキスト・スイッチを設計に組み込む
異なる業界の案件を 1 日に 3 つ走らせる、というのは、想像以上にコストがかかる。脳のモードが違う。
僕がやっているのは、
- 近いドメインを続けて並べる: 保険 B2B SaaS と教育 B2B SaaS は、業界は違うが PdM の動き方は似ている。隣同士に置く
- 遠いドメインは朝晩に振り分ける: 自治体ヒアリングは朝、医療プロダクトは午後遅め、企画は夜
- ドメイン切り替えの間に、物理的な行動を挟む: コーヒーを淹れる、5 分散歩する、雪かきする、洗濯物を畳む
最後の "物理的な行動を挟む" は地味だが、効く。コンテキストを切るのは、頭の中だけではうまくいかない。
3. 全分野で使う "思考の型" を 1 つに揃える
5 つの分野が並んでいると言ったが、僕の頭の中で使っている思考の型は、ほぼ 1 つだ。
顧客の声 → 構造化 → 仮説 → 最小単位での検証 → 学び → 次の手
これは Web プロダクトの PdM の動き方そのものだ。けれど、これは保険業界の業法対応にも、自治体ヒアリングにも、医療プロダクトの設計にも、同じ形で適用できる。
Skill 2 の記事 で書いた "自治体ヒアリングをユーザーインタビューとして読む" のは、まさにこの "思考の型を揃える" 例だ。
並走の上限は、案件数ではなく 「使い分ける思考の型の数」 で決まる、と僕は思っている。1 つの型で全部を見れるなら、案件は増やせる。型が分野ごとに違うなら、3 つで限界が来る。
並走と、地方で暮らすこと
ここまでは「動かし方」の話だったけれど、もう一つ大事な要素がある。
地方で暮らしているからこそ、並走が成立している、という側面だ。
東京で同じ案件群をやろうとすると、移動時間が積み上がる。物理的に会いに行く前提の文化がまだ強い。あと、刺激も多い。会食、勉強会、たまたまの再会 ―― 良いことだけれど、時間と注意力を消費する。
僕は人口 2000 人の町に住んでいる。地域活動以外は基本的にリモートで対応しているので、効率的に時間を使えている。会食などもそんなに多いわけでもない。
つまり、
- 物理的な距離が、時間を返してくれる
- 生活のノイズが少ないことで、思考の型を維持できる
- 地域での活動とWebプロダクトの仕事を行き来していることが、頭のリセットになる
これらが揃って、5 分野並走が成立している。
並走のリスクと、向き合い方
正直に書くと、並走には明確なリスクもある。
リスク 1: 各案件への深さが、専任 PdM より浅くなる
これは事実だ。1 つの案件に 100% 入り込んでいる PdM の方が、その案件の細部までは詳しい。
僕の場合は 「深さは個別案件のチームに任せて、僕は構造と接続を担う」 という割り切りで動いている。これがハマる案件と、ハマらない案件がある。
リスク 2: コンテキスト・スイッチで体力を消耗する
3 つ目の案件に切り替わるあたりで、明らかに集中力が落ちる。
対策は、**「3 つ目以降に意思決定を置かない」**こと。意思決定が必要な会議は午前中に集中させる。午後は実装サポート、企画、振り返りに寄せる。
リスク 3: 自分が病気になったときに止まる
これが一番怖い。専任 PdM なら自分が抜けてもチームが動くが、僕の場合、抜けたら 5 分野が同時に止まる。
ここは、
- ドキュメントを残す(議事録、ロードマップ、設計判断のメモ)
- 各案件で「僕がいなくても次の 2 週間が回る状態」を意識する
- 健康に気を遣う
…でしか対処しようがない。完全な解決策は無い。
開いている問い
並走の限界はどこか。
3 ヶ月で 5 分野が成立した。けれど、6 分野目を入れたら確実に何かが落ちる、という感覚もある。
僕の仮説は、並走の上限は、本人が使える "思考の型" の数で決まる だ。1 つの型で全部を見れるなら、案件は増やせる。逆に、各案件で違う型が必要になると、3〜4 で限界が来る。
これは PdM Playbook をシリーズで書き続けている動機にもつながっている。1 つの型を磨いて、5 分野・6 分野に通すことが、地方で複数案件を走らせる PdM の生存戦略になる、と僕は思っている。
雪かきが終わって、コーヒーを淹れる。次の Product mtg は、あと 30 分で始まる。